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作者のデビュー作『猿丸幻視行』は見事だった。主人公の意識が過去に飛んで折口信夫に憑依するという奇抜な設定の娯楽作ながら、暗号解読を織り込んだパズル的志向がトリッキーだ。パズルの謎解きがただの読者への挑戦ではなく、ストーリーとリンクしているのが素晴らしい。 才気走った作家のデビューにありがちなことだが、井沢のそれ以降の作品でこれを超えるものは出ていないように思う。歴史物や“逆説の日本史系”はもう充分だから、作者には本格ミステリーに世界に戻って欲しい。 この短編集『暗鬼』には気が利いた小品が多い。表題作以外にも、家康が実は巧妙な順で暗殺されたという話などは好みだ。いずれも登りつめた人間は孤独であるというわりとありがちな主題によるのだが。 ------------------------------------------------------------------------------ [あらすじ] 徳川家康は生涯側室しか娶らなかった。 それは幼い日に今川義元の元に人質に取られた際の屈辱的な経験、子種を絶たれるというものからだった。 ところが天下人に登りつめた今、家康の側室が子を生んだ。それは生まれるはずのない子だった。しかも妻は義元の愛人だったらしい。家康のわが子への疑念は年月とともに大きく膨れあがる。しかも、しかも“我が子”信康は見事な若武者に育っていく。周囲の賞賛をよそに家康の信康への憎しみは募る。 やがて家康は何かと理由をつけ信康を遠ざけ、ついには自刃に追い込むのだが… |
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