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zoom RSS 長すぎるぞ、『ヒストリアン』!

<<   作成日時 : 2009/08/16 22:07   >>

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『ヒストリアン(The Historian)』はアメリカの作家エリザベス・コストヴァ (Elizabeth Costova) のデビュー作だ。
全米でベストセラーになった小説であり、ハリウッドで映画化されたらしいと聞いた。


注) 以下の文中には、小説『ヒストリアン』の内容を含む。


『ヒストリアン』は、とにかく長大な作品だ、現在を生きる成長した‘私’、歴史学者であるその父親の過去の冒険談、そして若き日の父親が慕うオックスフォードの恩師ロッシ教授の体験、といういわば三世代に渡る物語だ。

問題は、その“大河物語”の中身だが、なんと“吸血鬼ドラキュラ”の探索なのである。

ホラー小説や映画になったドラキュラにはモデルがある。15世紀のワラキア地方(現ルーマニア)の領主、ヴラド三世(ヴラド・ツェペシュ)だ。串刺し公と呼ばれ、敵・味方から怖れられたもののたが、ルーマニアのためにオスマントルコと戦った英雄と見る向きもある。

もちろんモンスターとしての‘吸血鬼ドラキュラ’はアイルランドの作家ブラム・ストーカーが創作した怪物だ。
もともとは高貴な身ながらヴァンパイアとなり、ニンニクと十字架と銀の銃弾を苦手とするのはよく知られている。

本作の基本設定は斬首されたドラキュラが首を取り戻し500年生き続けたというものだ。
それも、吸血鬼ドラキュラではなくブラドとして復活するのだ。

この設定からして、かなり無理がある。

「長生きしてなにすんの?」と聞きたくなるが、なんと歴史書の収集なのだ。
というわけで、三代の歴史家(ヒストリアン)が事件に巻き込まれる。

ただし、三回吸血鬼に咬まれた人間は穢れた身(ヴァンパイア)になってしまうといった設定はそのままストーカーから拝借というのはいただけない。このことでも分かるように、本作に登場するドラキュラ(=ブラド)はストーカーの作った吸血鬼のイメージからまったく進展していないようだ。物腰こそ貴族的で優雅だが、いざとなれば拷問・串刺しも厭わない“不死の穢れた身”なのである。

しかし、‘吸血鬼’というのはそんなに怖いモンスターなのか?

西欧キリスト教社会では反キリスト、不死身、血を求める、などは宗教的イメージからみてかなりの恐怖心を喚起するかもしれない。しかし怪獣映画や多くのホラー作品に慣れている日本人にとっては、この程度のモンスター度ではいささか物足りない。本作中でも十字架とニンニクで身体を守る(?)場面が何度も出てくる。

本作は、
モンスターもの、ゴシックホラーものとしては中途半端。
歴史ものとしては教科書を写しただけ。

私には、その程度の作品に思える。

では、なぜアメリカで、この本は売れたのか?

おそらくアメリカ人は“数世代に渡る大河ドラマ的構成のドラマ”が好きである。アメリカという短い歴史しか持たない国の国民にとって、時間的スケール感のある物語は大いに興味をそそられる。しかも本作で舞台になるヨーロッパ各地は彼らの先祖の土地だ。

経済的余裕を得たヨーロッパ系アメリカ人の多くが晩年に祖先の痕跡を求めヨーロッパを訪れるという。

ヨーロッパ系アメリカ人読者は本作の‘私’とともに、ある種の“自分捜し気分”が味わえるのだろう。

また、探索過程でロードムービー的に東欧を行き来する主人公親子とともに旅行気分が味わえるのも大きい。
本にはご丁寧に地図が付くので、出版元も意識しているのではないだろうか。

そうでもなければ、この尋常でない長さと進展の遅さ(特に前半)には耐えられないはずだ。

あと読んでいてうんざりするのが、主人公含め女性陣が典型的跳ねっ返りアメリカ娘であることだ。
思い込んだらすぐ実行で、あまり人間的成長のない点も全体のリアルさを削いでいる。

余談だが、
J.イーガン原作で映画化された 『姉のいた夏、いない夏』 (The Invisible Circus) は失踪した姉の行方を捜しにヨーロッパを旅する妹の成長談だが、実は『ヒストリアン』と構成が似ている。もちろんモンスターは出てこないが、(心理的に)怖い面はあるし静かな味わいがあった。

本作も映画化する際は主人公の心理描写など、作り方次第では面白くなるかもしれない。

モンスターの CG にばかり金をかけても、傑作は生まれないだろう。

さて、本作の主人公は三代に渡る長い探索の末、ブラドとの最終決戦に望むが・・・いささかあっけない幕切れ。
トルコの秘密組織が500年かかって見つけられなかったものを素人集団が銃弾一発で・・・

オスマントルコの末裔もばかにされたものだ。

この小説は構えが大きく重厚だが、肝心なところは、このようにご都合主義のかたまりなのだ。

‘RPG 的’ とでもいえばいいのだろうか?

作中の登場人物の出会いがほとんど偶然に依っていることからも、それは感じられよう。

ところで、
『吸血鬼ドラキュラ』の作者ストーカーはイングランド人地主によって搾取されたアイルランド平民階級の出身だ。
したがって「人の生き血を吸う、滅びゆく貴族」という言葉には政治的メタファー(暗喩)が込められている。

ストーカーはただの化けものを小説にしたかったわけではないのだ。

この点、表面的な設定だけ借りて“アメリカ人受けする物語”を生み出した作者に共感は覚えにくい。

もちろん、『薔薇の名前』に及ぶべくもない。

残念だ。


ヒストリアン・I
日本放送出版協会
エリザベス・コストヴァ


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