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zoom RSS 訳注がおもしろい 『死をもちて赦されん』

<<   作成日時 : 2013/03/09 10:40   >>

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ピーター・トレメインの『死をもちて赦されん (Absolution by Murder)』は、「修道女フィデルマシリーズ」の第一作。

「首を縛られ樹に吊るされた修道士の遺体を見上げる修道女」 という彼女の登場シーンは印象的だ。

本作は、中世カソリック教会の教会会議を舞台にした連続殺人を描く意欲作。

アイルランドカソリック教会の「キルデアのフィデルマ」とローマ派「サクソンのエイダルフ」という対立する宗派の二人が協力して犯人を追うが、怪しい人物が次々と現れては殺され...という魅力的かつどこかで聞いたような設定だ。

しかし、よくある「ホームズとワトソンもの」 以上に、脇役のエイダルフが活躍する。

思想で対立しても、真実の追求のために、ともに難題に立ち向かうという理想主義が描かれているのだ。

本作は、ブリテンのウィトピアで AD664 に実際に開かれた教会会議が舞台である。

7世紀といえばずいぶん昔のように感じるが、ブリテン王(まだ戦国が終わっていない時代の殿様みたいなもの)がどのような教義に従うかを公開討論で決めるのだから、ずいぶんと先進的だ。

それ以上に、「復活祭は何月何日にやるべきか?」 「修道士のヘアスタイルはどうするのが適切か?」などを討論するため、地中海のローマから当時辺境のブリテン島に旅する使節がいたのには驚きだ。

教会同士の公会議を舞台にした小説といえば、誰もがウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を思い浮かべるだろうが、あちらは12世紀ごろの話であったはず。

この小説の主人公フィデルマはアイルランド派で、7世紀当時きってのインテリ女性。

法解釈に関しては大王とも互角に論じ合える上級弁護士という設定だ。

彼女は、男女平等・能力主義採用・他者への寛容において、ケルト系アイルランドの方が先進的であると嘆く。

長子が相続するサクソン人と違い、アイルランドでは兄弟でも能力主義だそうである。

特に処刑法や私刑の残酷さにおいてサクソン人への嫌悪が描かれる。

これは意外なことである。

当時アイルランド人の中心であった先住のケルト系(ローマでいうガリア人)は野蛮人のように言われることも多い。

アングロサクソンの英雄ロビン・フッドは、ケルト人を「人肉を食う連中」などと呼んでいる。

もっとも、ロビン・フッドは後年の作で12世紀が舞台のフィクション。

「歴史の勝利者」 アングロサクソンがいかにして対立勢力を悪者にしていったかは、 クーデターを「大化の改新」と呼び、蘇我氏を一方的に悪者に仕立てた日本の政変を見ても明らかだ。

(「大化の改新」は、偶然にもこの小説と同時代)

肝心のミステリーの内容だが、登場人物の大半が想像をもって書かれているとはいえ、歴史上実在の人物たち。

あまり歴史を歪曲した無茶はできないため、犯人像もそんな感じである。

伏線が露骨に張ってあるのでミステリーファンならすぐ気づきそうな気がする。

柳広司 『はじまりの島』 などは、実在の人物を扱いながらも、こうした点をうまく処理した点で勝っている。

それはともかく、『死をもちて赦されん』の訳注が読み応えがあって実にためになる。

それどころか小説本体以上に面白く、読み終えるころには古代アイルランドとブリテン島の歴史とキリスト教事情に詳しくなっているという代物だ。

この先、何の役にも立たない知識だが。。。


死をもちて赦されん (創元推理文庫)
東京創元社
ピーター・トレメイン


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