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zoom RSS 本当はこわいシェイクスピア

<<   作成日時 : 2013/12/10 22:45   >>

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小説以外でここ数年間に読んだもっともおもしろかった本である。


本当はこわいシェイクスピア (講談社選書メチエ)
講談社
本橋 哲也


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『本当はこわいナントカ』という本はよく見かける。

日本おとぎ話の「呪い」、グリム童話の「性的幻想」などこわいかどうか分からないが、おもしろいことはおもしろい。

著者の本橋哲也は、シェイクスピアに社会・思想・歴史の面から光を当てている。

前提として、シェイクスピアは「下ネタと暴力満載の下品で大げさな芝居」であると言いきる。

当時の劇場は「無学文盲の民衆が世間の情報を知る社交場でありメディアの発信地であった」のが重要という。

時代は下るが、オペラにも同様なことがいえる。

モーツァルト『魔笛』など大衆に迎合する意味不明な脚本だ。

(音楽の素晴らしさがそれを際だたせる)

日本の歌舞伎もこれに似ている。

赤穂浪士の討ち入りがとして正当化され、吉良上野介が歴史的悪役となったのは「忠臣蔵」という芝居のおかげ。

上野介が浅野内匠頭夫人に横恋慕するという下品なねつ造もなされている。

では、シェイクスピアの「こわさ」はどこにあるのか?

400年前に描かれた演劇の世界の登場人物が現在の私たちであるかのように感じさせるから。

陳腐な言い回しだがそういうことになるだろう。

敵役は敗者として大衆の前で「公開処刑」され、社会から追放される。

現代のネット情報社会を思わせるシーンも多々ある。


『テンペスト』

シェイクスピア最後の作品で、ベートーヴェンなど後世の芸術にも影響を与えた。

島を支配する魔術師プロスペローに従属するキャリバンとは何者か?

キャリバンは、奴隷、モンスターあるいは食人種ともとれ、演出家泣かせという。

いずれにしろ、英国の植民地主義と白人優越性の象徴的キャラクタであろう。

自らの娘を権力者の嫁に差し出し復権を果たすプロスペロ―は、結局古い家父長制に縛られた人物である。

「魔法使い」というのも怪しいのでは? というのが著者の見解のようだ。


『ヴェニスの商人』

「高潔な白人が強欲なユダヤ人シャイロックを懲らしめる」という見方はもう存在しない。

シェイクスピア時代のイギリスはユダヤ人追放令後であり、彼自身ユダヤ人に会ったこともなかった?

彼は伝聞による「悪いユダヤ人」都市伝説をもとに描いたのかも知れない。

国際商業都市ヴェネチア(ヴェニス)では、教養あるヨーロッパ系ユダヤと頑ななアジア系ユダヤとに分かれていた。

シャイロックをどちらに演出するかで内容が異なってしまう。

また、ヴェネチア商業の中心である純粋白人の男社会(=組合)にも秘密がある。

アントニオ―バッサーニオの男同士の友情がこの劇のテーマの一つ。

実はホモセクシャルな関係を秘めているとも考えられる。

もちろん、そんなこと表面には出さず劇は進行し、違法(としか思えない)裁判で白人組合の勝利に終わる。

最後には白人夫婦と白人とキリスト教に改宗したユダヤ人(シャイロックの娘)カップルが生まれめでたし(?)

改宗したということはシャイロック家には民族の血を受け継ぐ子孫がいなくなること。

全財産と娘を失い、強制改宗で民族への裏切り者となったシャイロックは悲惨すぎる。

これでも喜劇か?


『オセロ』

ムーア人(黒人)の将軍オセロが部下イアーゴの奸計にはまり白人の妻を殺すまでを描く。

オセロは白人社会というより、家長制度のヨーロッパ男社会に入ったと考えるべきだろう。

家長制社会では男の世継ぎが必要だが、妻との間に子供が生まれても混血児。

当時混血児は黒人扱いであったため、オセロには世継ぎというものが存在しない。

白人妻のデズデーモナの浮気を疑うのは世継ぎが残せる白人男子への憧れを疑うことが根底にあると読める。

それをオセロに吹きこむのがイアーゴだが、実に複雑で魅力的なキャラクタで、ある意味主役といっても良い。

オセロがイアーゴに迷わされ狂わされていく過程において男同士の信頼というものが作用する。

「お前が俺のためを思って妻の不貞を暴いてくれる」という思い込み。

前提となるホモソシャリズム(同性の社会的価値観共有)がヴェネチアを支えていたのだ。

『ヴェニスの商人』でも出てきた熱い絆 -体育会系にありがちな関係は、実はプチゲイの温床であった。

オセロとイアーゴが手を握り復讐を誓い、イアーゴとキャシオがベッドをともにするという演出もある。

同時にデズデーモナとエミリアの「女同士の友情」を描きながらも機能せずデズデーモナを見殺しにする。

デズデモーナだけでなくエミリアも不幸な女である。

デズデーモナの浮気の「証明」としてハンカチという小道具が出てくる。

これは女性器のメタファーであると同時に「出産を許されない登場女性たち」を象徴しているのかもしれない。


『アントニーとクレオパトラ』

クレオパトラはシェイクスピアの戯曲の中で最も難しい役柄の一つだそうだ。

歴史的な悲劇にも関わらず喜劇的ところもあるこの役、言葉を操ってギリシャの英雄を操る王女ならでは。

まさに娼婦と道化なのである。

ギリシャ系のプトレマイオス朝エジプトの王女であるクレオパトラ。

しかしエジプトはローマにとって辺境であり、シーザーやアントニーの子を産んでも皇帝の後継者にはなれない。

クレオパトラはデズデーモナ同様、「世継ぎを産めない女」なのだ。

シェイクスピアはクレオパトラの美貌を強調することはなく、かといって知恵を褒め称えるわけでもない。

アントニーがエジプトで会ったエキゾチックな妖婦という扱いだ。

アントニーの正妻で良妻賢母のオクテーヴィアを登場させ比較することでクレオパトラの妖しさを強調している。

妖しさは正統さの対極にある。

白人(ここではギリシャ-ローマ)正統男子を産むことができるか? が重要な世界では異端の象徴であった。

植民地主義と性差別・階級制度がシェイクスピアの根底にあるという結論。

それ自体はどうということもないが、過去の舞台演出をもとに語られるのが本書の特徴。

「歴史的演出」を担った名優の中には、X-men の P.スチュワートや I.マッケランも入っている。



Star Trek や Lord of the Ring などの特撮映画でもおなじみのおじさんたちが名優だったことにけっこう驚いた。

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