お奨めミステリー小説 (275) 『トーキョー・プリズン』 柳光司

密度の濃い本格小説を世に問う作者が戦後、焼け野原になった東京を舞台に描く一種の安楽椅子探偵もの。

肝心の探偵キジマが収監中の戦犯だからかなりの異色作といえるだろう。キジマはホームズとレクター博士と吉村昭の『破獄』で有名な脱獄囚のキャラクタを併せ持つ。ホームズ・ワトソンの例を引くまでもなく、異色探偵には常識人の相棒が必須だが、ここでは人の良いニュージーランド人のフェアフィールドがその役を演じる。

日本人にとっての原爆投下とアメリカ人にとっての真珠湾攻撃は似たようなものらしいが、、フェアフィールドは連合国側とはいえ自国領土が被害を受けなかったニュージーランド人ということで客観的に描かれる。

フェアフィールドによって他国人に映る日本人の様子や精神構造を記述される。「日本人は戦後も天皇という心の拠り所を必要とした」といわれるが、天皇が戦犯にならなかったことで一般日本人も罪の意識を軽減できる(軍部にだまされた!)というのは、なるほどという感じ。それはマッカーサーを慕う日本人の感覚とも矛盾しないらしい(?)。

作者はすでに『贋作坊ちゃん殺人事件』、『黄金の灰』、『はじまりの島』といった決定的な代表作を世に問うている。本作は理路整然としている分、これらを越えるインパクトは持ち得ないが、作者特有の思想披瀝があって、ただの謎解き小説に終わっていない。

あまり意外性のないストーリーだが、それでも世間の水準を大きく超えている。
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[あらすじ]

ニュージーランド人の私立探偵フェアフィールドは第二次大戦終結直後の東京に降り立った。一緒に探偵事務所を経営していた従兄弟の行方を捜すのが目的だったが、巣鴨プリズンの副所長ジョンソン中佐から奇妙な依頼をされる。刑務所内で警備に当たっていた米軍兵士がシアン化合物を飲み密室で変死したという。その謎解きを依頼されているのがB・C級戦犯として収監されているキジマという元日本軍中尉でその手伝いをするようにというのだ。

キジマは英語を流暢に話し、フェアフィールドに会うなりシャーロック・ホームズなみの推理力で驚かせる。
ところが本人は強盗に頭を殴られ記憶喪失状態に陥っており、自分が従軍していた5年間の記憶がないのだ。

捕虜収容所所長だったキジマの罪状はアメリカ人捕虜への虐待だった。記録によると、キジマが捕虜を殴るのは日常で、あるときは捕虜同士に殴り合いをさせ、火のついた棒を背中に押し当てた。タンパク質が少ないと不平を言った捕虜にはイモムシや腐った魚を食わせたという。そして捕虜の中には殺害された者もいたという。

キジマは頭は切れるものの血も涙もないサディストではないのか?こう考え始めたフェアフィールドの元にイツオとキョウコと名のる兄妹が訪れる。資産家の子供で古くからの友人だという二人はキジマにかけられている疑いを晴らすために協力したいという。ところが、肝心のキジマは兄妹との面会を拒んでいる。

二人が見せてくれたかつてのキジマの写真は今とは別人のように明るい少年だった。興味を覚えたフェアフィールドは戦時中のキジマの行動を再検討して、キジマを絞首台から救い出そうと奔走しはじめる。

その間にも巣鴨プリズンでは新たな死者が生まれていた。


トーキョー・プリズン (角川文庫)
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柳 広司


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