お奨めミステリー小説 (276) 『スロー・リバー』 ニコラ・グリフィス

1996年にネビュラ賞を受賞した本作は当然ながらSFに分類されている。
同時に良く書けたミステリーでもある。

誘拐された少女が誘拐犯の一人を殺して逃げ出すところから始まる。そしてアウトローな地下活動をする女性に助けられ自分を取り戻していく、ということで若者の“自分探し”のようだが、そんな甘い話ではない。階級格差と貧困、幼児虐待など今現在の問題が容赦なく描かれている。

中でも異様にリアルなのが主人公ローアが身分を偽り働く下水処理場の凄まじさだ。そこで描かれる下水処理方法は作者のリサーチの成果が出たのか迫真に迫っている。下水は物理的処理(吸着など)、化学的処理(中和など)、そして生物学的処理(バクテリアによる分解)に分けられる。親会社がバクテリアの遺伝子処理とそれらの餌となるものも自社のものしか受けつけなくしたことによる特許使用料で莫大な富を得るあたりは、いかにもありそうだ。

小説全体の構造も変わっている。ローア自身の一人称で語られる現在と三人称で語られる現在とローアの少女時代がカットバック手法で描かれる。過去を通じてローアだけでなくある資産家の一家の崩壊を描いていくのだ。この点はロス・マクドナルドを彷彿とさせる。

女の子の成長ものということで 『歌う船』 と少し似ているが、こちらは強きヒロインでない分、かなり現実的で、普遍的価値を持つだろう。ラストシーンも実に美しい。
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[あらすじ]

未来のロンドン、下水処理用設備で巨万の富を築いたデ・ウェスト家の末娘ローアは誘拐された上、麻薬漬けにされレイプされたビデオを世界中に流された。デ・ウェスト家にとってははした金の身代金を父親は払わず、誘拐犯はさらに凶暴になる。このままでは殺されると判断したローアは最後の力を振り絞り誘拐犯の一人を殺し逃げ出す。

裸で町に倒れていたローアはスパナーという女性に助けられ匿われる。スパナーはハッカーとして、世界中の金満家から金を奪っていた。彼女に偽の身分をもらったローアは姿を変えて下水道局の労働者として働き始める。

なぜ父親は身代金を払ってくれなかったのか?町は危険でうかつに外出できず、かといって家にも帰れないローアは虚飾に満ちた自分の一家を調べ始める。

一方で、ローアが身分を隠して働く下水道局の労働環境は劣悪だった。他の者より専門知識のあるローアは労働者たちを励まし職場を変えていく。ところが処理場でも事件が起こり、ローアは自分を監視する何者かの影を感じる。


スロー・リバー (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
ニコラ グリフィス


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