お奨めミステリー小説 (279) 『魔術師(イリュージョニスト)』 J.ディーヴァー

映画化された『ボーン・コレクター』で初登場した全身麻痺の元ニューヨーク市警科学捜査部長リンカーン・ライムと相棒の女性鑑識係アメリアのコンビ第5弾だ。

『ボーン・コレクター』が映画化された際は主役のデンゼル・ワシントンとアンジェリーナ・ジョリーが実に様になっており、“映画化による駄作化”が生じない好例だった。その後、『コフィン・ダンサー』、『石の猿』と工夫を凝らし楽しませてくれたが、作者がなによりも怖れるのがマンネリだそうで、今回は掟破りともいえるキャラクタを登場させてきた。

この作品の原題は神出鬼没な犯人を表し『The Vanished Man』という。‘消える男’ではなく‘消された男’という他動詞のところがミソで、ちょっとしたヒントになっている。一流のマジシャンで消失、早変わり、様々なミスディレクションを駆使するので、全編まさにジェットコースター的、たかが数日間の出来事とは思えない内容だ。特にリンカーンの前に現れる‘魔術師マレリック’には“お約束感”はあるものの、どっきりするだろう。

主役の二人だけではなく常連の刑事であるセリット、クーパー、ベルやリンカーンの介護師トムにそれぞれ魅力があり活躍するのも良い。シリーズものとしては理想的な展開ではないだろうか。今回はそれに加えて女性マジシャンのカーラと師匠のバルザックがなかなか曲者で良い味を出している。最終盤には思わずはっとさせられるシーンも登場する。まさに退屈させない作家なのだ。

少し残念なのがマジックの描写がしつこく続くことで、早変わりや消失を言葉で説明されるのはあまり粋でない。代わりに映像化したらさぞかし映えるだろうと言いたいところだが、どんなにCGが発達しても本作は映像化不可能作品でもあるのだ。

とにかく現代の科学捜査を駆使しつつも読者を気持ちよくだますトリック魂を忘れないエンターテイナーである作者こそが‘イリュージョニスト’であり敬意を示されるべきだろう。
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[あらすじ]

ニューヨークの音楽学校で女子学生が殺された。現場に駆けつけた警察官から逃れて立てこもった一室に警官が踏み込むと犯人は消え失せていた。目撃者によると、犯人は50代の中年男性で身体には火傷らしい大怪我の痕があった。

それから数時間後、メイクアップアーティストの男性が殴り殺され胴体を切断された。犯人は短時間でピッキングして被害者宅に侵入し犯行を行った後、70代女性に早変わりし悠々と逃走した。

犯行手口からいって犯人にはマジシャンの経験がある、と考えたリンカーン・ライムはエミリオらのスタッフとともに第三の被害者を予測する。一方でエミリオは偶然知り合ったマジシャンの卵カーラに捜査に協力してもらう。カーラは引退した老マジシャンのバルザックの元で修行をする女性だった。

カーラらの活躍でかろうじて第三の殺人を防いだかに見えたリンカーンたちだが、犯人を取り逃がした上、警官の一人をさらわれてしまう。さらに犯人の‘魔術師’ことマレリックは防御不能のリンカーンの目の前に出現する。

“魔術師”の本当の狙いはなにか?


魔術師(イリュージョニスト)〈上〉 (文春文庫)
文藝春秋
ジェフリー ディーヴァー


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