お奨めミステリー小説 (280) 『母子像』 久生十蘭

プロの作家をも唸らせる久生十蘭の短編の中でも短い作品で、きわめて凝縮された内容だ。
世界短編小説コンクールで一位に輝いたそうだが、第二次大戦直後の焼け跡日本でしか生まれ得ない小説だろう。

『久生十蘭短篇選』は駄作の見あたらない希有の短編集だ。

哀切で幻想的な光景が目に浮かぶ『黄泉から』。
終幕がまったく見えない『予言』、『黒い手帖』、『蝶の絵』。
結末を先に提示しながらも、そこにたどりつくまでの過程が手に汗握る『無月物語』など実に多彩だ。

作者の嫌みなほどの外国趣味はリズムの良い文体で“ご愛敬”といえる境地に達している。

函館というキリスト教会の多い町で育ちフランスに留学したらしいが何を勉強していたのかは不明というユニークな作者だ。

これ以上の短編集は、はたして生まれえるだろうか?
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[あらすじ]

第二次大戦直後の進駐軍厚木キャンプ近くの中学教師が担任する生徒のことで呼び出しを受けた。
和泉太郎という16歳の少年が素行不良で検挙されたというのだ。

太郎はサイパン島がアメリカ軍の手に落ちる直前に虐殺を怖れる母親の手にかかって死にかけた。
その後、教師たちの人工呼吸で息を吹き返し本土へ連れてこられたのだった。

普段はおとなしい太郎は夜になるとセーラー服を着て銀座のバーに花売りとして出入りしていた。
朝鮮戦争帰りの軍人をポン引きのようにバーに案内し、さらにビルに放火しようとしたのを補導されたのだという。

優等生だった太郎はなぜこんな行動を取ったのか?


久生十蘭短篇選 (岩波文庫)
岩波書店


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