お奨めミステリー小説 (283) 『絆』 小杉健治

作者の小杉は筋金入りの社会派ミステリー作家だ。ただし清張の描く政治や巨悪よりも、市民が巻き込まれるタイプの作品が多い。また早い時期から法廷ミステリーを書いていて、探偵役も原島をはじめとする弁護士が務める。

『絆』は小杉の代表作で、第41回日本推理作家協会賞長篇部門を受賞した。火曜サスペンス等で頻繁にTVドラマ化されており、原島弁護士の役は北大路欣也、渡哲也等大御所が演じてきた。

本作は全編が裁判所の中だけで進行する。原島が奈緒子のために奔走する(はず)の姿は一切描かれず、彼が連れてきた証人の証言と尋問だけが展開されるので、読者は裁判官か対立する検事の気分が味わえる。現在の小杉なら裁判員制度を念頭に置いて書いただろう。まさに“裁判ものの中の裁判もの”にふさわしい設定だ。

警察を一方的に市民の味方のように描いてきた日本のTVドラマでは逮捕されるまでが主眼で、裁判ものは低調だった。おかげで小杉も地味な作家というイメージが強いが、本作は単なる法廷ミステリーという枠を越えた告発劇の色が濃い。作者は事件の舞台となった高度成長期から1980年代、さらに現在まで残る日本人の偏見とそこから生まれた悲劇にメスを当て断罪していくのだ。ある意味で浪花節で的であり、個人レベルでは真の悪者が登場しないミステリーといえる。

その結果生まれた本作は一旦読み始めたら止まれないエンターテイメントでありながら、和風の社会派小説という希有な作品となった。

見上げた作家だと思う。
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[あらすじ]

43歳の主婦、弓丘奈緒子は会社社長である夫殺しの容疑で逮捕され、裁判にかけられることになった。奈緒子は愛人ができた夫の勇一に離婚を迫られた結果、勇一を殺害して強盗に見せかけたとされた。華奢な美貌の奈緒子が冷酷な計画殺人を実行したとは思えないが、本人は罪を素直に認めている。

奈緒子の弁護を引き受けたのは原島弁護士だ。豪腕で鳴る原島は半ば引退していたのだが、この事件の担当だった水木弁護士に引っ張り出された。水木は奈緒子が誰かをかばっているという気がしてならない。しかしそれを暴くことがさらなる悲劇を生むのではないかと悩み、修羅場をくぐってきたタフな原島に託したのだ。

奈緒子を殺人で起訴した金沢検事は自信たっぷりに有罪を立証していくが、物的証拠より状況証拠と奈緒子の自白が中心だ。これに対し裁判でも奈緒子は淡々と罪を認めていくが、原島は情状酌量を求めず無罪を訴える。

肝心の奈緒子が罪を認めてしまったせいで、マスコミは奈緒子を悪女のように書きたてる。しかし原島は奈緒子が誰かを庇っていると確信し、彼女の過去を探っていく。東京の下町で貧しいながらも家族と慎ましく暮らしていた彼女がいかにして殺人容疑者となったのか?自ら汚名を背負ってまで誰を庇おうとしているのか?


絆 (集英社文庫)
集英社
小杉 健治


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