お奨めミステリー小説 (284) 『悪魔はすぐそこに』 D.M.ディヴァイン

長らく“幻の作家”だったディヴァインだが、1990年代後半から日本語訳が出始めて「こんな作家がいたのか」と驚かせた。こうしたコピーははったりであることも多いが、ディヴァインに限ってはその通りだ。クリスティが絶賛したのも頷ける。

ディヴァインの特徴はパズル的な謎解きに加え、登場人物たちの生々しい描き方だ。本書における主人公は美男美女のピーターとルシールと思いきや、途中から平凡な事務員カレンと足の不自由な大学教授ラウドンに代わっていく。読者はこの二人に感情移入するはずだ。1960年代の大学事務局だというのに、官僚的な責任回避体質など現代の日本に通じるものが多々出現する。無能な上司に睨まれながら悪戦苦闘するカレンはさながら仕事のできる現代の派遣社員というところだろうか。

作者はカレンだけでなく、他の脇役まで血が通った書きぶりで大学の事務部や図書館司書の仕事を生き生きと描き尽くす。舞台の大半は権威主義的な大学の中であるにも関わらず、退屈させるところがない。特に嫌みな化学教授ミリガンの言動は読んでいて痛快なほどだ。

多少密室めいた話も出てくるが、本書のトリックに見るべきところはない。しかしパズル的な犯人当てに関しては、とにかく最後の最後まで犯人が分からない。誰もが怪しいクリスティ作品と対照的に誰も怪しくない。とても犯人に思える人物が見あたらないのだ。登場人物一覧を見ながら消去法で考えていたら、全員消えてしまった。

しかしそんな読者も犯人に驚かされて、もう一度最初から読み返す羽目になるだろう。なるほど、たしかにこの展開と心理分析はありだと思う。再読すると凄みすら感じる・・・とは解説者の言葉だ。それも言えている。
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[あらすじ]

ハートゲート大学の数学講師、ピーターは同僚の経済学講師ハクストンから相談を受けた。横領の疑いで大学から告発され辞職に追い込まれそうなのだという。ハクストンはピーターの父である数学者のデズモンドの友人だったが、ピーターは困惑して断る。ハクストンは聴聞会で自分を辞めさせるのなら大学にとってスキャンダルな事実ぶちまけると脅すが、直後に自宅で変死する。

ピーターの父デズモンドは偉大な数学者だった。ピーターは幼い頃から父親の偉大さを聞かされて育ったが、自分がそれほどの才能を持っていないことに気づいている。ただ父親の名前のおかげで今の職に就けたので複雑な気持ちだ。一方ピーターの婚約者ルシールは経済学科随一の才能の持ち主で将来を嘱望されている。ピーターは自分たちカップルのバランスが取れていないのが心配の種だ。

ハートゲート大学の事務職員カレンはルシールの同居人だ。カレンはかつてデズモンドがスキャンダルで大学を追われた際の聴聞会の資料を家に持ち帰っていたが、何者かに襲われて気絶している間に資料を奪われてしまった。38歳の若さながら法学部長になった切れ者ラウドンとカレンはハクストンの死がデズモンドのスキャンダルに関係あると見て調査を開始する。

デズモンドのスキャンダルとは教え子を妊娠させた上、中絶に失敗して死なせたというものだった。ところがハクストンは当時デズモンドから妊娠させた人物は別の大学関係者だったと聞かされていた。ハクストンの死はその人物が口止めに殺したのではないか?カレンは自分を襲ったのも同一人物ではないかと考える。

しかし当時の資料が収められた図書館からも資料は盗まれていた。しかも、たまたま窃盗犯に出くわした学生が殺されてしまう。

常に先回りする犯人は大学関係者の中にいるはずだ。

“悪魔”は誰だ?


悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)
東京創元社
D.M. ディヴァイン


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