お奨めミステリー小説 (286) 『幻影のペルセポネ』 黒田研二

同作者の 『カンニング少女』 はカンニングという行為に生きがいを見いだす若者の生き方を問う妙にさわやかな作品だった。本作ではネット上のヴァーチャル空間と現実の世界に平行して起こる殺人を描きながらも青春小説のテイストを失っていない。

主人公は人とうまくつき合えない若者だが、明晰な頭脳と正義感を持っている。ただ、それを現実ではうまく表現できないだけなのだ。さながら虚構に生きるミステリー作家を思わせる、と感じる読者がいるかもしれないが、実際のミステリー作家はむしろ社交的で楽しい人が多いという。どうやら本人が健全な精神の持ち主でなければ、人殺しをテーマになど小説など書き続けられないらしい。

ストーリーの方は現実世界の人間とその分身であるネット上のアバター、それも一人で複数を操る場合もあるので、とにかく登場人物の数が多い。“名前のトリック”など盲点を突いた見るべきものもある一方で、途中の伏線があまりに細かく、そんなマニアックなの分かるか、という部分もある。さらに一人称で書かれている部分はいわゆる“神の視点”で書かれてはおらず、小説のフェアプレー度は低い、と結構不満はあるのだが、『アンクル・トムの小屋』のごときラストシーンが余韻を残して終わったとき許せてしまう。

これは心優しき作者が青少年に向けたメッセージである。
ミステリー史上に残る傑作とまではいかないが、魂のこもった力作ではないだろうか。
------------------------------------------------------------------------------

[あらすじ]

引きこもりぎみの青年、来栖はコンピューター雑誌に寄稿するフリーライターだ。知り合いのゲーム雑誌編集長、近藤はネット上の架空の町ペルセポネを舞台にしたソフト『ヴァーチャルプラネット』にはまっており、来栖にも参加するように誘う。

『ヴァーチャルプラネット』は通信機能とCGを駆使したネット上のコミュニケーションツールだった。早速参加した来栖のアバターであるクリスはペルセポネの街の自室で刺殺死体を見つけて仰天する。現場は密室なので、自分が殺人事件の犯人と疑われても仕方ない状況だ。もちろんネット上での出来事だから、死んだアバターの主人(マスター)は別名で新しいキャラクタを設定し、参加し直せるのだが。

行きがかり上、自分のアバターの無実を証明させられることになった来栖は奇妙な事実を知ることになる。ペルセポネで人(アバター)が死ぬことはたまにあるが、最近殺されたアバターのマスターまでが死んだという。しかもその殺され方は自らのアバターがペルセポネで殺されたのと同じやり方だという。つまり殺人アバターのマスターが現実世界でも殺人を犯していると考えられるのだ。

ペルセポネのクリスには様々なアバターが近づいてくる。その中でもメグという女の子のアバターは協力的でクリスと行動を共にするようになる。一方で、「メグには気をつけろ」という忠告を与える者も現れる。

ペルセポネでは、どのアバターを信じればいいのか?
それぞれのアバターの主人は現実世界の誰なのか?

その間にも現実世界では邪悪な企みが進行していき、来栖は巻き込まれていく。


幻影のペルセポネ
文藝春秋
黒田 研二


Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック