お奨めミステリー小説 (287) 『フランドルの呪画』 A.P.レベルテ

少し珍しいスペインのミステリー作品だ。アメリカの現代ミステリーにお決まりの美男美女コンビやタフガイの刑事、反骨のジャーナリストなどは登場しない。代わりにゲイながら深い教養と精神世界を持つ古美術商セサル、勝負の結果にまったく興味を持たないチェスの最強マスター、ムニョスなどいかにも一癖あるヨーロッパ風キャラクターが活躍する。

そしてもう一つの主役がタイトルになっている15世紀の“フランドルの巨匠”ことピーテル・ファン・ハイス(1415-1481)の描いた一枚の絵で『チェスの勝負』である。絵の推定制作年は1471年、木版は雇いざねに継がれた三枚の柏の固定パネル。サイズ:60cm×87cm(20cm×87cmのパネル三枚)、パネルの厚さ4cm。1917年のプラド美術館の作品目録に絵の写真がのっており、1923年に相続人が返還を要求するまでプラド美術館に保管されていた・・・等リアルな設定で読者は引き込まれる。しかし全て作者による虚構世界であり、ファン・ハイスという画家など存在しない。それに気づかずその筋に問い合わせた読者もいたというが、責めるのは酷というものだ。

途中チェスの解説が延々続くシーンがあり多くの読者が音をあげるようだが、作者もそれほど専門知識を持って書いているわけではないので、気にしなくても良い。500年前の殺人とチェスの盤面がリンクしていることと駒の分類が分かれば、ほとんど理解できるだろう。

とにかく歴史あるヨーロッパの都市を舞台にした格調高いミステリーの世界に浸れる。なお、歴史ミステリーの謎解き部分に比べて現実世界の殺人場面が物足りないのは 『3000年の密室』 同様いたしかたないようだ。 
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[あらすじ]

女性の絵画修復家フリアは業界で才能が認められ始めた新鋭の美術家だ。フリアは画廊経営者の友人から15世紀のフランドル派の巨匠ファン・ハイスの『チェスの勝負』という絵画の修復を頼まれる。やがてフリアは絵の具の下に隠された文字を発見する。“QUIS NECAVIT EQUITEM (誰が騎士を殺害したのか?)”この隠し文字の存在が公表されれば、間違いなく美術界にセンセーションが起き、競売にかけられる絵の値段は跳ね上がる。これは絵の所有者、画商、修復家にとって、願ってもない発見である。

フリアは絵の由来を調べ、『チェスの勝負』の中で勝負するフェルナン・オスタンブール公爵と騎士ロジェ・ダラス、さらにそれを見つめる公爵の妻ベアトリスの関係に注目する。
絵が描かれたのは騎士ダラスが暗殺された二年後のことだった。模範的な騎士として尊敬を集めたダラスがなぜ、誰によって殺されなければならなかったのか?

ファン・ハイスの告発の意味を知るためには絵の中のチェスの盤面の謎を解かなければならないと考えたフリオとその後見人セサルはマドリード随一のチェスプレーヤーであるムニョスの力を頼る。ムニョスは勝負に淡泊な変人だが、集中すると並外れた能力を見せる。そして「騎士を殺したのは誰か?」という疑問は「ナイトを取った駒はなにか?」という問いであることを指摘する。

やがて5世紀前の事件を調べているはずのフリオの周辺で現実の殺人事件が起き、フリオにも危険が迫ってくる。



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アルトゥーロ・ペレス・レべルテ


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