お奨めミステリー小説 (289) 『リセット』 北村薫

タイトルからどんな内容か分かりそうなものだが、それはどうでも良い。とにかく、作者の見事な文書術に酔いたい。

前半の舞台は神戸近辺、ハイソサエティの女子学生のたわいない話のようだが、時代背景が戦前から戦中とあって、暢気な中にも緊張感がある。ちなみに主人公が通うのは、関西のお嬢様学校として現在も残る甲南女子高校、主人公の父親が勤めているのはライオン歯磨きらしい。

後半は突然現代になってある男の回想記だ。戸惑いながら読み進めると、半分ほど過ぎたところで前半との関わりが分かってくる。正直な話、それがどうしたと言いたくなるが、これをただの乙女チックな物語とは呼びたくはない。

「星です。私の最初の記憶は、流れる星なのです」で始まり、「'そして時は流れ、星はまためぐり続ける」で終わるこの物語を読むか読まないかで、人生の一部である何かが違ってしまいそうな気すらするのだ。物書きを志す現代人にとって必読の書とは言い過ぎか?
------------------------------------------------------------------------------

[あらすじ]

私、水原真澄は神戸の名門女子校に通っている。学友には父親の勤める六甲ハミガキの社長令嬢八千代さん、航空工学の権威として有名な弥生原博士の娘優子さんなどがいた。私は八千代の従兄弟である修一を紹介され、胸をときめかす。

やがて戦争の色が濃くなっていくころ、海兵団に入った優子さんの兄が死んだ。大学から動員されていったため、軍隊で陰湿ないじめに遭い、殴り殺されたという噂が飛ぶ。やがて皆が好きな宝塚歌劇も戦争の影響で『海ゆかば』を最後に上演が中止になり、歌劇場も海軍に接収された。私たちも飛行機の部品を作る工場で働かされる。仕事の合間に私は金属部品でフライ返しを作って修一にプレゼントする。修一も「いつか返せ」といって本を貸してくれた。

サイパンが落ちてからは大阪・神戸も頻繁に空襲にみまわれた。私たちは呆然と焼け野原に立ち尽くした。もう日本の敗戦は時間の問題だった。さらに修一の勤める軍需工場も空襲に襲われる。

大病を煩い死を覚悟した村上和彦は娘に自分の過去を語る。それはあの戦争が終わって15年ほどした小学生のころだった。埼玉に暮らしていた和彦の近所に本好きの女性が暮らしていた。和彦に分かったのは、彼女が若い頃を神戸で過ごしたことぐらいだった。30歳過ぎで私の母より若く育ちの良さそうな女性だったが、当時の女性にしては珍しく、出版社に勤務して自活していた。

和彦と彼女は本を通じて親しくなっていく。不思議だったのは、彼女が時々私の方を奇妙な目つきで見ていたことだった。ある日、彼女の家でホットケーキを焼いていた私は奇妙な感覚に襲われ、思いがけない言葉を口走る。しかし彼女はそれを予期していたようだった。いったい、彼女は誰なのか?


リセット (新潮文庫)
新潮社
北村 薫


Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る




この記事へのコメント

この記事へのトラックバック