お奨めミステリー小説 (292) 『石の猿』 J.ディーヴァー

叙述トリックの名手ディーヴァーは本作でも健在だが、異色なのは切れ者リンカーン・ライムの精神世界が東洋人との接触を通して作中で変わっていくことだろう。“野蛮さ”80%、“東洋の神秘”20%というアメリカ人から見た中国、そして東西の出会いが描かれる。

本作の主人公はライムやアメリアでなく、殺し屋ゴーストと中国人刑事ソニーの二人ではないか?
特にソニーは途中で完全に主役を食っており、アメリアにいつもの存在感はない。
ソニーの見せ場は多いが、風水の配置からゴーストに迫っていく設定など秀逸だ。

またライムとソニーが碁を打つ場面があるが、ソニーの「あんたはそのままでいいんだ」という相田みつをのような言葉と相まって静かな感動がある。得体の知れない東洋人に参ってしまうライムとアメリアの子弟は少し滑稽でもあるが、ある意味歴史の浅い国に暮らす彼らの弱点もさらけ出している。

小柄ですばしっこく、たどたどしい英語を操りながらも妙に馴れ馴れしいソニーのイメージは西洋人から見たジャッキー・チェンだろうか?とにかく面白いキャラクタで、「わが友ソニーへ」というライムの言葉は作品に躍動感を得た作者の実感ではないだろうか。とはいえ、ソニーの最終的な扱いは東洋人ならではだが。 
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[あらすじ]

密航を斡旋する中国人マフィアのクアン・アンは通称ゴーストと呼ばれる凄腕の殺し屋であり、アメリカ政府にまで影響力がある人物として怖れられていた。そして今、中国から十数名の亡命希望者を積み、ニューヨーク近くまで航行中だった。

しかし、リンカーンー・ライムの指揮のもと海岸線で待ち受けていたアメリカ湾岸警備隊に追跡されたゴーストは驚くべき行動に出る。船を爆破し“積み荷”である密航者を皆殺しにしようとしたのだ。さらに救命ボートで逃亡を図った密航者たちに銃を持って追跡を計る。しかし元大学教授のサム・チャンに率いられたチャン一家とウー一家は逃げ延び、ニューヨークの華僑を頼って姿を消す。海岸に取り残されたゴーストは彼らを皆殺しにすることを誓う。

ライムの片腕であるアメリアは密航者の流れ着いたと思われる海岸に急行し、ゴーストに殺された男女の遺体を発見する。しかし銃で撃たれながらもかろうじて生き延びた医師のソンを助け連れ帰る。ソンは物静かで小柄な中国人で、珍しい石の猿のペンダントを身につけていた。ソンは最近体調に不安があるアメリアに漢方の知識でアドバイスをして、徐々に信頼を得ていく。そんなアメリアにライムは苛立つ。

ニューヨークで分かれたチャン一家とウー一家はそれぞれの道を選ぶが、経済的にも苦しく言葉もよく通じないため追い詰められていく。ゴーストは徐々に網を絞り、両家族に狙いを定めた。

密航者に交じっていた中国公安局の刑事ソニー・リーはゴースト逮捕に執念を燃やしライムに協力を申し出る。
ヘビースモーカーで科学捜査を軽視するソニーに最初は疑わしそうなライムたちだったが、ソニーは独自の能力で信頼を得ていく。やがて不思議な精神世界を見せるソニーとライムの間には奇妙な友情が芽生えるのだった。


石の猿
文藝春秋
ジェフリー・ディーヴァー


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