お奨めミステリー小説 (293) 『インディアン・キラー』 S.アレクシー

タイトルを直訳すると“インド人殺し”だが、ここでいうインディアンとはアメリカインディアンのことだ。
しかも表題から想像されるのと真逆、“キラー・インディアン”の話なのだ。

アメリカ先住民を“インディアン”とは差別的で“ネイティブ・アメリカン”と呼ぶべきではないのか?というのが今日一般的だが、アメリカ先住民である著者は違う意見を持っている。アメリカが多民族国家であることの自覚と先住民への敬意を払うべきという、いわゆる“リベラル”こそが先住民の姿を埋没させているというのだ。このことは作中の女学生マリーの言葉で語られる。

事件の舞台となるアメリカ西海岸北部の町シアトルはかつて先住民が闊歩し、現在はリベラルの中心地とされている。そして先住民史を教える大学教授やインディアンの一族を自称する作家など、普通の感覚では考えられないほど先住民寄りの白人が登場する。実際にこうした人たちはいるらしい。

しかし主人公で真の先住民の血を引くジョンはそうした中にあって自らのアイデンティティーを失い壊れていく。白人の中でまじめに働きながらも、受け入れられることを拒否し、同じ肌の人間からも排除される。

その姿は鬼気迫るものがある。

不可思議なラストでは事件が完全に解決されなかったり、また重要と思われた登場人物が途中でどうでもよい扱いになったりと、小説としては不完全な印象も受ける。しかし本作は、アメリカ先住民の姿を新しい視点で問う問題作であり、純文学の薫り高いミステリーを超えたミステリーといえよう。
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[あらすじ]

シアトルの町で白人男性の死体が発見された。死体の頭の皮がはがされ現場にフクロウの羽根が落ちていたため、インディアンの儀式との関連からも捜査は進められる。マスコミは犯人を“インディアン・キラー”と呼び、巷の話題をさらう。

インディアンのジョンは先住民の集落で生まれてすぐ白人の家に引き取られた。両親は裕福でジョンは白人の学校で恵まれた生活を送ったが、高校を卒業するとシアトルの工事現場で働き始めた。義理の両親はジョンの行く末を心配するが、ジョンは誰ともつきあわず都会の孤独な生活を続ける。

シアトルのワシントン大学に通うマリーはインディアン居留地から出てきた優秀な学生だ。最近のマリーに我慢ならないのは、担当教授はじめ白人の中に先住民こそが自然の象徴であるかのように語る極端なインディアン寄りの者たちがいるだった。

実際の現地も知らず、本から得た知識だけで自分たちを養護してもらいたくないというのがマリーたちの言い分だ。

インディアン・キラーの犯行はエスカレートし、シアトルの町は不穏な空気に包まれる。ラジオのDJが「白人が甘やかしたせいでインディアンがつけあがった」と語ったのに影響され、町のインディアン系ホームレスを襲撃する者まで出てきた。報復としてインディアンの中には通りがかりの白人を襲う者も出てくる。

警察の捜査対象は大柄で孤独なインディアン青年ジョンに向けられた。

そのころジョンはマリーと出会い、少しずつ変わっていくのだが…


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