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zoom RSS お奨めミステリー小説 (297) 『東京ダモイ』 鏑木蓮

<<   作成日時 : 2010/09/23 21:58   >>

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第52回江戸川乱歩賞受賞作だ。作者は40代半ばでの本格デビューとあって、貫禄すら感じさせる。
取り上げた題材も“シベリア抑留者の証言”という渋いものだ。

巻末には例によって審査員たちの意地悪い評が並ぶが、盛りを過ぎた有名作家には書けない新鮮さがある。
謎解きのテンポが速くはないものの、堂々たる作品といえるだろう。

シベリア抑留とは実に凄まじい話だ。第二次大戦終了後にも関わらず数十万の日本人が-40℃の極寒の地シベリアに連れ去られ鉄道建設などに従事させられたわけだが、凍土を砕いての作業は想像を絶するものだった。その鉄道は現在でも“ロシア人の貴重な足”として使用されているという。

北方領土といい、日本政府は負けた負い目からか、やられ放題である。

冒頭から寒々とした強制収容所の描写が続く。
ここで起こる将校殺人事件が本題かと思いきや、唐突に話は現代に飛ぶ。
メインとなるのはシベリア抑留者が帰還した舞鶴港で起きた殺人事件だ。

この事件の謎解きをするのが自費出版社の営業社員というのが少し珍しい。
素人から金を貰ってうまく儲けを捻出するやり方など思わず笑ってしまう。
しかしこの設定には必然性があり、上司との軋轢・和解など現代的にうまく処理している。

題材だけではなく、小説の技巧もかなりのものだ。

そして第二の主役ともいえるのが創作された数々の俳句の存在だ。登場する刑事たちが揃って俳句に造詣が深いなど強引な面もあるが、少し囓っただけの素人の仕事ではないだろう。俳句は一句二句、短歌は一首二首と数えるなど、言われないと気づかないような点が謎解きに結びつくのが面白い。

収容所の中では元日本兵が自己保身のためスパイ化したり社会主義に転向したりする中で、登場人物たちは日本人であることを保つために俳句に打ち込む。実際そんなことがあったのかは分からないが、生きて日本の土を踏むためには、少しでも生きがいが必要だったのは確かだろう。

ダモイ(帰郷)とは、彼らにとってどれほど重い言葉だったろうか?

かつてシベリア抑留後、10年間ソ連にいたという男性に会ったことがある。
小樽の美術館に勤めていた老人だったが、「ロシア人を恨んではいない」と静かに語っていた。
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[あらすじ]

1947年、ソ連邦イルクーツク州にある第53俘虜収容所では、元日本兵の一団が寒さと戦っていた。彼らに配られる乏しい食糧で厳しい労働に従事するのは、もう限界に来ていた。指揮官の鴻山中尉は未だに帝国軍人の威厳を保っていたが、ソ連政府による“民主化”という洗脳運動により部下たちの統率は乱れつつあった。

元兵士の一人、高津二等兵は寒い朝、凍土を溶かし水を作るために宿舎を出たところでソ連兵に呼び止められる。緊張に満ちた様子の彼らが示したのは首を一刀のもとに切断された鴻山中尉の遺体だった。高津はじめ日本兵たちは刀を取り上げられており、凶器となる刃物は持っていない。民主化を拒む鴻山中尉を殺すことで利益を得るものは誰なのか?この謎は解けず、日本兵たちは間もなく帰国が決まる。

戦後60年、自費出版者の営業社員である槙野は京都の綾部に住む高津という老人に出版の依頼を受ける。内容は高津老人がシベリア抑留時代から書き溜めてきた俳句とシベリアでの体験談だった。質素な生活を続ける高津だが、出版後の宣伝として新聞広告を派手に載せて欲しいと言い、その料金も負担するという。

良い客にありついたと思う槙野だが、ある事件をきっかけに高津は失踪してしまう。その事件と、は舞鶴港でロシア人の老女が殺された一件だった。しかも死の直前まで一緒にいた日本人医師までが失踪してしまう。高津は舞鶴で遺体に対面して号泣した直後にいなくなったという。

槙野は高津が残した原稿を読み始めると、それはシベリアの収容所での凄まじい体験が書かれたものだった。しかも、鴻山中尉が殺された一件と今回のロシア人老女殺しには関連があるらしい。

槙野は原稿から収容所での事件の犯人を捜すことで舞鶴の事件に迫ろうとする。

そして、高津という老人の人生に興味を覚えた槙野は彼の残した原稿を通して、その人生を辿ることになる。


東京ダモイ (講談社文庫)
講談社
鏑木 蓮


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