テーマ:ミステリー小説

お奨めミステリー小説 (270) 『虚貌』 雫井脩介

『栄光一途』 、『火の粉』 、『犯人に次ぐ』と並んで、本作も読者を飽きさせない。とはいえ、ミステリーとしてはトリック一発に頼っている感があるので、好みが分かれるだろう。 作者もその点を意識しているようで、それを補うかのように人物描写が細かい。特に最初の事件が起きるまでが長く、主犯の時山を中心にアパートの一室でひそひそ話をするシーン…
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お奨めミステリー小説 (269) 『マーダー・プラン』 J.ケラーマン

翻訳物は苦手な私だが、ジョナサン・ケラーマンは例外だ。その職人技もさることながら、登場人物のキャラクタが立っている。巻き込まれ型で次々と質問を繰り出す小児精神科医アレックスの姿はロスマクの生み出した私立探偵リュー・アーチャーを彷彿させる。家族の問題が明らかにされていく舞台も同じカリフォルニアだ。 本作は『殺人劇場』、『サイレント・…
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お奨めミステリー小説 (268) 『ダンテ・クラブ』 M.パール

19世紀のボストン、ハーバード大学周辺を舞台にしたミステリー。詩人ワズワースはじめ実在の人物たちが登場し、歴史の重みを感じさせながらも、登場人物たちの行動がどこか軽妙だ。 前半はハーバード大学教授たちの日常が描かれる。新大陸最高の知的エリートたちの姿は相当にスノッブだ。同時に彼らは旧大陸から離れて独自の文化を打ち立てようという気概…
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お奨めミステリー小説 (267) 『殺す』 J.G.バラード

ずいぶんと衝撃的な日本語タイトルだが、原題は "Runnning Wild" という。SF作家として高名な作者だけあって、淡々とした中にも近未来的な雰囲気漂う“犯罪の記録”だ。 アメリカをはじめとする欧米では塀で囲まれた超高級住宅地が珍しくなくなったという。厳重に警備されたその一帯に住むことができるのは限られたハイソサエティの住民…
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お奨めミステリー小説 (266) 『熱い十字架』 S.グリーンリーフ

この小説は1990年頃、ブッシュ(父)政権下の南部サウスカロライナを舞台に繰り広げられる事件を描く。歴史的でありながら今日的なテーマを扱っている。 東京と大阪の文化の違いはよく話題にのぼるが、アメリカの北部と南部の違いはそれどころではないらしい。南北戦争以前に奴隷制で盛え民主党の支持基盤だったのは南部、奴隷を解放した北部は共和党支…
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お奨めミステリー小説 (265) 『父親の気持ち』 北川歩実

『天使の歌声』という短編集の中に入っている作品だ。この短編集は手抜きのない力作揃いだが、登場人物の整理がいまいちで、それぞれの行動を動機づける心理が追いにくい。また“家族”を無理やりテーマにはめ込もうとしたことが、作者の美点である論理性を濁らせているような気もする。家族同士で論理的な推理合戦をしてお互いを追いつめあうだろうか? 例…
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お奨めミステリー小説 (264) 『闇に抱かれて眠りたい』 藤村いずみ

エーリヒ・フロム著『悪について』にはネクロフィリア(死への愛好)に関する記述がある。ネクロフィリアに‘悪性のナルシズム’と‘共生的・近親相姦的固着’が結びつくと危険な人間が生まれることがあるという。 暗闇へと向かう破壊衝動を伴う極端な依存関係は母と娘の間で起こる確率が高い。母親は娘を独占しようとし、娘は母を怖れる一方で依存心が大き…
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お奨めミステリー小説 (263) 『リヴァイアサン号殺人事件』 B.アクーニン

'ファンドーリンの捜査ファイル'とあるが、ロシア人の名探偵といってピンとくる人がいるだろうか?しかし著者の生み出したファンドーリンものは次々と翻訳・映画化される屈指の人気シリーズとなった。 作者は大の日本通で三島や島田雅彦のロシア語訳も手がけ、そのペンネームは日本語の'悪人'からきているそうだ。しかも作中に必ず日本人を登場させるそ…
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お奨めミステリー小説 (262) 『テロリストが夢見た桜』 大石直紀

『パレスチナから来た少女』 、『誘拐から誘拐まで』 といった小粋な作品を発表してきた作者だが、なんとデビュー三年でさっぱり仕事の依頼が途絶え引退を決意したという。最後だと思って書いた本作で小学館文庫小説賞を受賞し作家として復帰したといういわくつきの作品だ。 内容の充実ぶりに比して本が売れないのは、この作者特有の直情的な記述等にある…
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お奨めミステリー小説 (261) 『被爆のマリア』 田口ランディ

新世代の作家といえる作者が急に原爆という重い素材を選び読者を驚かせた短編集。 どの作品にも現実のモデルがあるらしいが、表題作では長崎で被爆したマリア像が象徴のように捉えられている。 したがってこの作品には原爆の事実はほとんど出てこない。 予定調和な落ちもない暗澹たる物語だが、最後にわずかな救いも感じられる。 大浦天主堂…
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お奨めミステリー小説 (260) 『スリーピング・マーダー』 A.クリスティ

『カーテン』は名探偵ポアロの最後の作品にして最期の作品でもあるわけだが、クリスティの作品で最後に出版された長編はこの『スリーピング・マーダー』だ。そしてポアロと並ぶ名探偵ミス・マープル最後の事件でもある。 自分の没後、遺族に印税を残すため、『カーテン』は娘に、そして『スリーピング・マーダー』は夫に残された。 とはいえ、老大家が枯…
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お奨めミステリー小説 (259) 『サマー・アポカリプス』 笠井潔

哲学者探偵、矢吹駆を登場させた『バイバイ・エンジェル』の続編ともいえる作品。 天使の次は黙示録というわけで、ミステリー史に残る大傑作と言い切りたい。 滅ぼされた異端の宗教とその遺跡、西洋史の暗黒部分、聖書の解釈と見立て殺人、宝探し、犯人当てとさらに意外な真相などが入り交じって、謎がてんこ盛りだ。本格ミステリー小説の行き着いたある…
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お奨めミステリー小説 (258) 『郵便配達は二度死ぬ』 山田正紀

何が面白いのか分からないままにぐいぐい引きつけられてしまう作品というものがある。 私にとっては、この作者の 『妖鳥(ハルピュイア)』 がそうだった。 断片的な情報をつなぎ合わせ、都市郊外の病院が禍々しい場所に変貌していく様を表現した個性的な作品だ。 本作は東京の夢島という一角が舞台だが、もんじゃ通りと呼ばれる商店街があるあたり…
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お奨めミステリー小説 (257) 『村でいちばんの首吊りの木』 辻真先

辻真先は名古屋出身、事件の舞台に名古屋が出てくることもしばしばだ。1954年にNHKに入社したということだから、ずいぶんとベテラン作家になったが、作品の多くが軽いもので、密度の高いものは少数だ。 この短編はまたも名古屋が舞台だが、過疎の村をテーマに持ってきた異色作で、日本の成長に乗り遅れまいとするかのような親子の手紙の書簡で事件と…
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お奨めミステリー小説 (256) 『探偵大杉栄の正月』 典厩五郎

大杉栄といえば関東大震災のどさくさで殺された革命家というぐらいにしか認識していなかったが、その大杉に探偵を務めさせるという作品。 大杉が他の社会主義者と一線を画していたのは「独裁主義では社会主義も腐敗する」などと指摘していたことで、現代にも通じる見識だ。本作中の大杉は革命を夢見る戦士、という理想主義的な面はあまり感じさせない。それ…
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お奨めミステリー小説 (255) 『イントゥルーダー』 高嶋哲夫

作者は日本原子力研究所に勤務し、学会で技術賞も受賞している筋金入りの原子力技術者。 本作では安易に専門知識をひけらかすわけではなく、むしろ控えめにして分かりやすく説明している。 国家戦略としての原子力産業の位置づけや電力会社と地元の関係などが語られ。特に“反対派”結城のが語る「産業のない田舎では危険を承知で原発を建てて大都市のた…
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お奨めミステリー小説 (254) 『無痛』 久坂部羊

作者のデビュー作『廃用身』は強烈な印象を残した。動かぬ手足は切ってしまうという発想からして怖い。とはいえ作者が大阪大学を卒業した医師で作家ということもあり、大学の図書館でもよく見かける。 医師の作家は(渡辺淳一など)珍しくないが、医学そのものをテーマにした作家ということで『チーム・バティスタ』と同じパターンだ。当然ながら医療用語や…
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お奨めミステリー小説 (253) 『聖ヨゼフ 脱獄の夜』 藤本ひとみ

ジェラール・ドパルデュー主演の映画『ヴィドック』は悪党あがりで大男の探偵が超自然的な力を持つ連続殺人犯に迫っていく物語だった。こうした“聖なる野人”というキャラクター設定はブラウン神父の相棒フランボアを思わせる。 フランス史を舞台に書き続ける作者は細かい部分の調査が行き届いていてリアルさが感じられる。 特に一般大衆の描き方がうま…
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お奨めミステリー小説 (252) 『十三番目の陪審員』 芦辺拓

2009年5月から“日本流の陪審員制度”である裁判員制度がスタートする。つまり一般市民が裁判に参加し、有罪・無罪判決を下すのに一役買うのだが、市民の関心は驚くほど低い。街でのインタビューでは「素人には判断できない」、「人を断罪するのに抵抗がある」等の声が聞こえる。 これらは一見、日本風で奥ゆかしいようだが、“法律のプロ”裁判官が過…
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お奨めミステリー小説 (251) 『誘拐』 高木彬光

シンプルなタイトルだが、個性的な作品だ。高利貸し(今でいうサラ金)経営者の子供を身代金目当ての誘拐するという社会派な面と法廷を舞台にした知恵比べ(厳密には法廷劇とはいえない)という面を持つ。1960年代前半に書かれたことを思うと、大変モダンな作品といって良いだろう。有名な吉展ちゃん事件として知られる幼児誘拐殺人事件よりも前に書かれている…
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お奨めミステリー小説 (250) 『星々の舟』 村山由佳

直木賞受賞作品だが、ここ十数年の受賞作の中でも出色の出来ではないだろうか。 東野圭吾 『容疑者X』や宮部みゆき 『理由』の受賞からも分かるように、この賞は本来の趣旨(一応“新人賞”なのだ)から外れて、功績のあった作家にご褒美的に与えられる。したがって『悪意』、『白夜行』や『火車』は「まだその時期ではない」ということでもらえなかった…
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お奨めミステリー小説 (249) 『最後の一瓶』 S.エリン

ワインを使ったミステリーといえば思い出すのがTVシリーズ『刑事コロンボ』屈指の傑作『別れのワイン』だ。カリフォルニアワインが小道具に使われているのもしゃれているが、知的で生真面目な犯人にコロンボが感情移入し、対決と同時に友情の物語となっているのが異色だ。これはその後の『殺しの序曲』などでも繰り返されるパターンだ。 この短編にもそう…
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お奨めミステリー小説 (248) 『パズラー』 西澤保彦

作者のデビュー作は『解体諸因』、バラバラ殺人ばかりを扱っているという異色の短編集だった。それぞれの解体され方にも理由があるのだが、エレベーターに乗ってから降りるまでの間にバラバラになっていたというトリックなど、いったい作者はどんな人間なのか興味を覚えたものだ。 ありがちなことだが、作者の西澤氏はまっとうな常識人である。デビュー時は…
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お奨めミステリー小説 (247) 『相棒』 真保裕一

寡作な作者の特徴は生真面目、手抜きなし、そして熱い人情か。短編集『防壁』に収められた作品は自らの命をかけて人命救助に挑む男たちが描かれるが、ここでもそのスタイルは健在だ。 警察のSP、海上保安庁の潜水士、自衛隊の爆弾処理班、消防士、と危険と隣り合わせという身からか、主人公たちは私生活で羽目を外しやすく、女性関係に問題ありというとこ…
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お奨めミステリー小説 (246) 『空中庭園』 角田光代

この作者の人間観察は変なところで鋭い。解説の石田衣良が書いているように、特に“男を品定めする女の視線”がやたら厳しく、読んでいてうすら寒い思いにさせられる。 なにせ、「恥を知らない人間は人間以下」、「あんたみたいにチョロけたやつは無敵よね」などと人前で言うような女が登場するのだ。団地暮らしのどちらかというと労働者階級の一般人がそれ…
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お奨めミステリー小説 (245) 『天使が消えていく』 夏樹静子

息の長い作家、夏樹静子のデビュー作である。 かつて『推理小説を科学する』という本において、「まさに驚くべき作品とトリック」と絶賛された。 『推理小説を科学する』は元群馬大学の教授で多彩な趣味人、畔上道雄氏の著作で、なんと講談社ブルーバックス(!)から出版されている。内容は数々の密室トリックやアリバイトリックなどを「科学的な批判精…
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お奨めミステリー小説 (244) 『奇想、天を動かす』 島田荘司

島田作品はある時期まで大トリックと序盤早々に提示されるきわめて不可解な謎(著者は幻想的という言葉を好んでいた)という要素に重きを置いていた。主に御手洗潔が探偵を務める作品で顕著であり、『占星術』や『アトポス』などが代表作だ。一方で吉敷刑事シリーズには社会派作品と呼べるものもあり、作者の多面性を示している。 この作品は作者の両輪であ…
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お奨めミステリー小説 (243) 『死神』 篠田節子

書名とこの作者の作風からモダンホラーと思う読者もいるだろう。 しかし中身は大違いで、現実感と下世話さに満ちた連作短編集だ。 本作の初版の帯にあったキャッチフレーズは 'ケースワーカー事件簿'。 ケースワーカーとは公的な福祉事務所などに勤務する社会福祉の専門職員のことで、その多くが地方公務員だ。 そして、この連作短…
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お奨めミステリー小説 (242) 『13階段』 高野和明

江戸川乱歩賞の受賞作が全ておもしろいとは限らないが、本作はよく考えられた設定で、乱歩賞の歴史に残る作品であると思う。映画化時に反町隆史主演ということで、観なかったことが惜しまれる。 登場人物は極めて限られ、三上と南郷の会話で簡潔に状況が説明される。殺人事件と三上の過去の接点が匂わせられるが、はぐらかされる。勘ぐって隅から隅まで読み…
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お奨めミステリー小説 (241) 『海を見る人』 小林泰三

作者小林は典型的な「理系作家」だが、当初は『玩具修理者』や『人獣細工』、『ΑΩ』といったグロテスクなイメージが先行していた。その後、短編SFの名手という評価が定着し、さながら“日本のテッド・チャン”という感じだ。 作品の質ではチャンに負けていないが、英語圏以外というハンディは作家にとって誠に大きい。 『海を見る人』は時間と空…
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