地味なワーグナー映画 『ルートヴィヒ』

『ルートヴィヒ (Ludwig Ⅱ)』 はワーグナー生誕200周年に制作された映画だ。

いやがおうでも比べてしまうのが、ヴィスコンティの大作『ルートヴィヒ 』だろう。

かつては「神々の黄昏」というワーグナー風の副題がついていた。


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これは絢爛豪華でネットリとした貴族趣味のイタリア映画だったが、今回のは質実なドイツ映画。

南ドイツの各城でロケしながらも、かなりあっさりと仕上がっている。

例えるなら、歌舞伎と大河ドラマぐらい雰囲気が違う。

バイエルン国王なんてドイツ統一を目指すプロイセンのビスマルクに怯える地方の豪族のようだ。

薩摩・長州に脅かされる名門ながら小藩といった風情で幕末の会津藩松平家みたいなもの?

繊細な若きルートヴィヒを演じる新人俳優の演技は素晴らしいが、「美王」にはいまいちな容姿。

ただ温室育ちでいきなり権力を持たされた者の苦悩はよく伝わってくる。

劇中には、彼を脅かすビスマルクやナポレオン三世との会談シーンが出てくる。

ビスマルク はただの鉄血軍人には描かれていない。

知性があり、自分と対照的な優男ルートヴィヒとの間に友情すら感じられる。

このことは事実に即しているようで、これ以外にもかなりかなり歴史に忠実な映画だ。

さて、晩年のルートヴィヒは昼夜逆転の変則的な生活で醜く太ったのは有名。

映画後半はまったく別人のようだと思ったら、本当に別な俳優が演じている。

しかし、それほど醜いわけでなく知的で恰幅の良い紳士のようである。

王の容姿は何年もかけて徐々に変わっていったので周りの人にはこんな風に見えていたのかも知れない。

(ハリウッドなら特殊効果でなんとでもするだろう)

よくいわれる「狂王」には見えず、それだけに無理矢理幽閉されたという悲劇的な印象が残る。

対照的に弟オットーの狂い方は凄く、滅びゆく名門一族の暗さが伝わってくる。

絶世の美女とされミュージカルでもおなじみの エリーザベト も登場する。

この映画ではかなり地味な感じで、自由思想を持ちつつもわがままに振る舞った貴族の娘に描かれる。

エリーザベト本人は容姿にコンプレックスがあり黒ベールを被っていたともいうので、事実に近いかも知れない。

しかし、なにより予想外なのは、ワーグナーが思ったほど登場しないこと!

この映画を「ワーグナー生誕200周年記念映画」と思って観るとかなり裏切られるだろう。

登場する楽劇は『ローエングリン』と『トリスタンとイゾルデ』のみで、それもかなり限定的だ。

ワーグナーの音楽は、一つの国家がゆっくり崩壊していくさまを描くための小道具なのである。

どこがヤマなのか分からないようなゆったりとしテンポの映画だが、ヨーロッパの雰囲気に浸るには良いだろう。

この雰囲気から学生時代に観たベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』を思い出した。

ハリウッド映画に飽き足らない映画ファンに観て欲しいが、あいにくと週末の映画館はがらがらであった。





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